大判例

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千葉地方裁判所 昭和37年(ワ)164号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕訴の提起が、文書の解釈において若干自己に有利に過ぎたという点で、多少の過失があつても、違法な訴の提起とならず、したがつて、不法行為は成立しない。

〔判決理由〕(2) 〔前略〕而して、右原本に記載されて居る文言は、前記の通り、原告の主張する通りであるけれども、その趣旨は、必ずしも明瞭ではなく、その趣旨を明確にする為めには、解釈を要するものであることが、右文言自体によつて明かであるから、立場の相違によつて、自らその解釈に相違が生ずることは、多言を要しないところであり、而も、当事者は、自己の有する立場に従つて、有利に事を解釈するのが通常であるから、その解釈に基いて主張されるところの事実は、時には、真実に符合しない場合も生じ得るのであるが、それは、解釈の自由に基く当然の結果であると云ひ得るものであるから、その主張された事実が真実に符合しない場合であつても、それが解釈に基いて主張された以上、何等の違法性もなく、又、虚構の事実を主張したことにもならないものであると云はなければならないものであるところ、前記訴外児玉章吾の言明を信じて前記土地を買受けた被告から訴訟の委任を受けた(この点は、弁論の全趣旨によつて、当事者間に争がないものと認める)弁護士訴外辻村精一郎は、被告の立場に立つて右文言を解釈し、之に基いて、原告主張の通り主張して、原告に対し、その主張の訴を提起するに至つたものであること(被告が、原告主張の通り主張して、原告主張の訴を提起したことは、当事者間に争がない)が、証人辻村精一郎の証言と弁論の全趣旨によつて認められるので、その訴の提起は、違法性がなく、又、虚構の事実を主張して為されたことにもならないものであると云はなければならないものであり、

(3) 従つて、右訴に於ける判決の結果が原告主張の通り確定するに至つても、(この点は当事者間に争がない)、それは、被告に権利のないことが確定したに止まつて、被告の提起した右訴が違法なそれであることにはならないものであり、

(4) 然る以上、被告が提起した原告主張の訴は、適法なそれであると云はざるを得ないものであつて、被告が、証拠を偽造し、虚構の事実を主張して、右訴を提起したと云ふ事実は全くないと判定せざるを得ないものであり、

(二) 次に、被告が、重大な過失によつて、事実の認識を誤り、真実に反する事実を主張して、前記訴を提起したと云ふ事実があるか否かについて、審接するに、

(1) 被告から訴訟の委任を受けた前記弁護士が、右甲第一号証の原本に記載の文言を解釈して、原告主張の通り、請求の原因たる事実を構成し、之に基いて、前記訴を提起したことは、前記認定の事実と前顕証人辻村精一郎の証言とによつて、明かなところであつて、更に、同証人の証言によると、右弁護士は、右事実の構成に先ち、右甲第一号証の原本の名義人である前記訴外児玉章吾を訪れて、同人に面会した上、その記載の文言の趣旨について、質問を為し、その応答は必ずしも明確ではなかつたが、その応答の態度は、自ら、右弁護士の質問を肯定して居ると信じ得るに足りるものであつたので、右弁護士は、右原本の文言に対する自己の解釈の正当性を信ずるに至つたものであること、及びこの解釈の正当性を信じ得たことによつて、前記事実を構成するに至つたものであることが認められ、この認定を動かすに足りる証拠はなく、而して、原告と右訴外児玉章吾との間の前記土地に対する賃貸借契約が原告主張の通りの効力を有することは、法律上、当然のことであるけれども、その法律関係については、法は、当事者の合意によるその効力の廃止(合意解除等による効力の消滅)を許容して居るのであるから、原告と右訴外人との合意による右契約の効力の廃止は、その可能性があるのであつて、而も前記甲第一号証の原本に記載されて居る前記文言によると、前記の様に信じて居た被告の立場に立ち、而も之を被告に有利に解釈する以上、右当事者間に、右の様な合意が成立したと解釈し得る余地があるのであるから、右弁護士が、被告の立場に立つて、右の様に解釈し、且、賃貸人たる右訴外人に直接当つて、その解釈の正当性を確めたことは、極めて、妥当な処置であつたと云ふべく、而も、右訴外人の態度によつて、その解釈の正当性を信ずることが出来、之によつて、前記訴を提起するに至つたのであるから、その訴の提起に至るまでの過程に於ては、重大な過失と判定し得る様な所為は全くなかつたものであると判定するのが正当であると云ふべく、然る以上、被告の為した前記訴の提起には、重大な過失などはなかつたものであると云はざるを得ないものであるから、被告が、重大な過失によつて、事実の認識を誤り、真実に反した事実を主張して、右訴を提起したと云ふ事実は全くないと判定せざるを得ないものであり、

(2) 仮に、右訴の提起について、被告に何等かの過失があつたとすれば、それは、前記認定の諸事実のあることに徴し、前記甲第一号証の原本に記載されて居る文言の趣旨の解釈に於て、若干被告に有利に過ぎたと云ふ点にあると認められるのであるが、解釈は、前記の通り自由であつて、然るが故に、解釈に相違が生じ、之によつて、当事者間に紛争が生ずるに至るものであるところ、その紛争の解決は、裁判所の裁判によるべきものであるとするのが現在の制度であるから、この場合に於て、裁判所に訴を提起することは、正に、適法なそれであると云ふ外はなく、従つて、訴の提起に於て、多少の過失のあることは、それを違法ならしめることのないものであるから、被告が前起訴を提起するに際し、右の点に過失があつたとしても、その訴の提起は、適法なそれとして、違法性のないものであり。従つて、それは、違法な訴の提起とはならないものであると云はざるを得ないものである。(田中正一)

〔説明〕本件訴訟の原告は土地の賃借人で、被告は、右土地を買つたものであるが、その賃貸借契約には、存続期間三年の約定であつた。判決の認定によると、被告はこれを更地の値段で買つたもので、その際前主から、「千葉市武石町七六六番の二外一筆合計面積八〇坪については昭和二四年四月一日から昭和二七年四月一日迄池田武雄に賃貸してありましたが期日満了を以て再契約を承諾せず明渡を請求してあります」なる書面が入つている。被告は、これをもつて、約定の期限の到来によつて、本件土地を明渡す旨の合意解除の約定が成立した、と解し、原告を相手どつて、建物収去、土地明渡請求の訴を起したが、一審、二審ともに敗訴し、その判決は確定した。

本訴では、原告は、まず、右書面(甲第一号証の原本)は偽造である、と主張したが、これは、被告の父が司法書士に作らせたものを、土地の前所有者が承認して押印したものであつて偽造ではない、と認定されている。

そこで、被告に右文書の解釈についての過失があつたかどうか、が問題となつたのであり、判旨は、多少の過失はあつたが、不法行為とならない、としたが、また、解釈には多少の行き過ぎがあつたが、過失はない、ということもできるように思う。

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